その日のことは事細かに覚えていた
春のくせに雪が舞うような寒い寒い日だった。
二人で朝からあり得ないとグチグチ言いながら空を見ながら笑ってた。
本当に平和で、なんて他愛もない時間
「じゃ、ちょっといってくんね」
「え どこへいくの」
「コンビニ」
「…嘘」
「はぁ?嘘じゃねーし」
(嘘だよ、ベル嘘つく時、目を見せるんだもん)
金色に輝くその髪が大好きだった。初めてであった時は芸術作品のようなそれをみては頬を赤らめていたけれど、とんでもない
芸術作品?私が一目ぼれしたのは悲しき悪魔の申し子だった
悪魔に心を食べられた私はその極上の愛に溺れていった。そして世間知らずの悪魔兼殺人鬼兼王子様は私に出逢ってゆっくりと人の形になっていき、笑うことを覚えた。たくさん笑った。泣くことを知って恥じることもなく全力で泣いた。悔しさも、愛しさも、すべてすべて一緒に経験していったよね、ベル。
そうして出逢って丸2年が経った。毎日一緒にいたように思う。ワガママな王子様は一般人の私に社会見学だといって殺しの(彼らの言うところの任務)現場に呼び出しては見せ付けるように次々と任務を遂行していった。きっと怯えもせずに見とれていた私も気違いの部類に入ることは火を見るよりも明らかだった。つりあいの取れた恋人同士なんだななんて皮肉に思いながらほくそ笑んだのをよく覚えてる。
彼の抑えきれない殺戮衝動、これはもう
「本能の域」
鮮やかで、無駄のない動き。本人がまったく感じていない孤独さがより美しく見せていたとしたらそれは何て悲しいことなのか。まるで舞うかのようなその形は深く私の胸に焼き付き、悲しみとは違う同情とも少し違う。とにかく説明のつきにくい感情が常に渦巻いていた。
『何でベルでなければいけなかったんだろう』
誰だって、誰だっていい筈だ。人を殺したい人なんてごまんといるのに
なぜベルがその環境に当てはまりその位置にいるんだろう
なぜ、あんなにきれいに人を殺せるのがベルでなければいけなかったんだろう
普通に生きて、普通に死んでいくことが一生許されない呪いと共に生まれてきた
あんなに美しくてあんなに悲しい私の愛しい人。
「じゃ、チョコレート買ってきて」
「ししっ太るぜ」
「うっさいなーいいから買ってきてよ。カカオ99%でいいから」
「あれ薬に近いじゃん。あんな糞まずいのでいいのかよ」
「うん」
苦くて口の中でなかなか溶けてくれなくて
それでいて後味が悪い
「あれがいいの」
「そっか」
「いってらっしゃい」
「ん」
「気をつけてね」
「ん」
「あいし…てるよ」
「…ん」
部屋を出る背中を捕まえて抱きつくと優しい香水の香りが鼻孔の奥に走った。
私がしがみついた部分だけボーダーのシャツの色が濃くなっていく
きっと涙がしみた箇所だけが冷たい。ごめんねベル。
背後からまわした腕に優しく触れて振り向こうとしない貴方はきっと正解なのだと思う
だとしたら
震える私は愚かかしら、泣いてしまう私は愚かかしら
貴方が愛しい故に
いつ死ぬかわからない貴方を思い浮かべては眠れなくなる
私は
愚かかしら?
(さようならを言ってくれないならせめて貴方の中で私を生かせて)
(私も私の中で全力で運命と戦った貴方が行き続けるのだから)
二度と会うことのないであろう愛しい人よ
私は燃えるように貴方を愛していました。
って何てありがちなwww
駄目だでなおしてきた方がいいぜアタイwwww